働き方改革の必要性と改革手法を理解する

1. なぜ今「働き方改革」が必要か

 なぜ今、「働き方改革」が必要なのでしょうか。その背景には、日本が抱える深刻な問題と、日本社会全体の動向の変化が挙げられます。「男女共同参画白書」(2020年)のデータによると、日本の男女別の有償労働時間は、先進諸国の中で男性は1位、女性は2位です。一方で、「労働生産性をOECD加盟諸国で比較すると、日本は20年以上連続で最下位です。つまり、日本は先進主要国の中で最も時間をかけて仕事をし、生み出す付加価値は最も低い国という状況です。これには、日本の人口構造にも要因があります。

短期的・長期的な労働力の確保

 「人口ボーナス期」「人口オーナス期」という概念があります。人口ボーナス期は、生産年齢人口の比率が高く、その国の人口構造が経済にとってプラスとなる時期です。日本では、ちょうど高度経済成長期に当たります。しかし、高度経済成長期が過ぎた後、日本は人口オーナス期に入ります。オーナスとは“重荷”という意味です。生産年齢人口が減少して働き手が減り、経済発展がしにくい時期となります。「人口ボーナス期は、一度終わると二度とこない」とも言われますが、人口オーナス期に入った日本が復活できるチャンスはあります。それには、「短期的・長期的な労働力の確保」が必須です。

 短期的な労働力の確保には「女性活躍」が重要であり、長期的労働力の確保には「出生数の増加」が重要です。女性活躍が進まない理由には、仕事と家事育児の両立が困難なことによる女性の離職があります。また、出生数の増加に関わる要因として、第1子の子育てで夫の参画が得られた家庭では、第2子以降が産まれているというデータがあります。つまり、出生数の増加には、男性が家事育児に参画するため、早く帰宅できる職場や働き方が必要です。女性活躍という号令のもと、男性の働き方を何も変えずに女性活躍を進めて、なかなか成果が出ずに負のサイクルに陥っている企業が多いです。そして、男性が育休を取得して家事育児のスキルを磨くことが、女性の離職を防ぎ、女性活躍につながります。

働き方の違い(人口ボーナス期と人口オーナス期)

 人口ボーナス期と人口オーナス期では、働き方の違いがあります。人口ボーナス期では、なるべく「男性が働く・長時間働く・同じ条件の人を揃える」ことが勝てる条件でした。一方、人口オーナス期では、なるべく「男女ともに働く・短時間で働く・違う条件の人を揃える」ことが大事です。それにも関わらず、1990年頃に終わった人口ボーナス期の成功体験に固執し、人口オーナス期に適した「働き方」を社会全体で手に入れられていないことが、日本が抱える大きな問題となっています。

2. 選ばれる会社に必要な戦略

 選ばれる企業に必要な戦略は何でしょうか。まず、人手不足の解決策が3つ挙げられます。「組織」をバケツに例えると、1・流入を増やす(人を増やす)、2・効率化する、3・流出を減らす(離職率を低下させ長く働いてもらう)ことが必要です。これを1→2→3の順で進めてはいけません。まずは離職を減らすために、長時間残業や人間関係といった不満を減らしていきます。そうすると離職も減り、自然に生産性も高まって業務の効率化が図れます。さらには、組織のブランドも高まり、口コミだけでも人が入ってくるようになります。ぜひ、3→2→1に着目して進めてください。

離職の原因=自社の課題を明確に捉える

 では、どのように離職の原因をつき止めればよいでしょうか。離職の原因は一般論ではなく、自社の課題を明確に捉えるべきです。その方法には、離職者へのヒアリングや、エンゲージメントサーベイ(従業員の視点からみた「会社とのつながりの強さ」を数値化して把握し、改善するための調査ツール)等があります。例えば、アンケートを取ることで課題を明らかにしていくことがお勧めです。慣習を見直す議論を進めている企業ほど、離職率が低下しています。職場のチームで働き方を変えるための議論をしてください。しかし、何もアイデアが出てこない会議や議論をしても無意味です。職場で相談事が気軽にできる心理的安全性がやはり大事です。

ダイバーシティには心理的安全性が必要

 心理的安全性とは、「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」です。上司に当たる方は、部下との心理的安全性を大切にし、意見を尊重して少しでもできるところから始めるよう、後押しをいただければと思います。
 離職防止や業務効率化には、多彩な人材が活躍できる労働環境がカギだと、ダイバーシティやイノベーションの重要性がよく叫ばれます。その土台として大事なのが、「心理的安全性」や「ワーク・ライフ・バランス」です。心理的安全性は、ダイバーシティと密接な関係性があります。心理的安全性が高いチームは、ダイバーシティの高さに関わらず、パフォーマンスが高い傾向にあります。ですから、単にダイバーシティを推進するだけではなく、同時に心理的安全性を高めることを考えてください。多様な人材が活躍する、ダイバーシティが進んだ企業は、従業員の採用や定着に高い成果を出しています。

組織の成功循環モデル

 心理的安全性を高めていくと、具体的にどのような変化があるのでしょうか。「成功循環モデル」を用いてご紹介します。

 バッドサイクルとしてよくやりがちなのが、「結果の質」から求めることです。残業時間を「○時間以内にしなさい」とか、一律で号令をかけるようなやり方では、「関係の質」も「思考の質」も下がります。まず「関係の質」から始めて、心理的安全性を高めることに着目してください。

 心理的安全性の高め方には4つのポイントがあります。1点目は「傾聴する」ことです。会話に集中して、笑顔で話を聞き、意見は否定せず受け止めることが大事です。2点目は「承認する」ことです。人を名前で呼ぶことや、相槌を打つことも大事ですが、最も有効なのが承認することです。3点目は「雑談する」ことです。適度な雑談は、回議中の発言のハードルを下げる効果があるだけでなく、チームの雰囲気や関係性が良くなるといった利点があるので、ぜひ取り入れていただきたいです。4点目は「寄り添ったフィードバック」です。部下の失敗を責めるのではなく、感情的にならず、対策を一緒に考えていくことが大事です。この4つの観点を意識して、チームが話しやすい環境を整えることが、上司の役割です。

3. 働き方改革の進め方

話し合いの手法「カエル会議」

 働き方改革は、残業削減のための取り組みと思われがちですが、一人ひとりの「ありたい姿」、理想の姿を目指すための取り組みです。現状からありたい姿に向かってPDCAを回し、試行錯誤しながら向かっていくわけです。
 そして働き方改革の大事な本質は「話し合うこと」です。その手法として、「カエル会議」がお勧めです。カエル会議とは、「働き方に関する話し合いの場」です。「カエル」は、早くカエル、働き方をカエル、生き方・人生をカエル、といった駄洒落からきています。中でも、グラウンドルールが3つあります。1つ目が「相手の意見やアイデアを否定しない」こと。2つ目は「役職・年齢に関わらず意見を出す」こと。3つ目は「反対意見は代替案をつたえる」ことです。

「ありたい姿」の決定

 働き方改革には、4つのステップを踏んでいくことが大事です。このステップを踏んで、ありたい姿を設定してください。

■ステップ0 チームのありたい姿の決定

まず、「ありたい姿」のイメージを付箋に書き出し、意見を集めて共有します。よく似たアイデアを近くに貼り付けていくとグルーピングされていきます。そこに挙がってくるキーワードを一つの文章にします。長い文章でも大丈夫です。ゴールイメージの要件は、「全員が共感できる」「定量的な目標がある」「具体的な想像ができる」ということです。

■ステップ1 働き方の現状確認

「ありたい姿」にたどり着くためには、「生産性」と「満足度」の軸に基づいて、現在の働き方を確認する必要があります。「生産性」を可視化するには、円グラフで業務ごとの所要時間や割合を把握し、増減したい時間や主業務を見ていきます。可視化することで、課題も見つけやすくなります。「満足度」については、アンケートを用いて数値化することがお勧めです。

■ステップ2 課題を抽出

問題に挙がったところは、課題として扱っていくやり方が効果的です。現状確認や課題が抽出できたら、今度はその課題に対して真の原因を掘り下げます。それが「要因分析」です。

■ステップ3 解決策の決定

解決策の優先順位をつけることが大事です。その場合、効果と難易度のマトリックスを活用してください。横軸が効果、縦軸が難易度で分類していきます。まずは、「難易度は低く、高い効果が期待できる」ことから着手してください。次に「難易度は高いが、高い効果も期待できる」ことが続きます。効果が低い左側は、取り組む必要はありません。

■ステップ4 施策の実施

解決策の優先順位をつけて実施する時には、「Who(誰が)」「What(何を)」「When(いつまで)」の3つが最低限分かればよいです。加えて、どうように測るかの「指標」も考えられると、振り返りが容易になります。

成功する働き方改革の特徴

 このように、働き方改革を4つのステップに沿って進めますが、成功しやすい、成果が出やすいチームの特徴があります。「心理的安全性が高い」「働き方改革に前向きである」「「カエル会議」が定期的にある」ことです。「カエル会議」で真っ先にやってほしいのは、やめる仕事、やめてもよい仕事を見つけることです。
 そして働き方改革は、まずはトップダウンからやっていくということが大事です。次に管理職研修を行い、モデルチームを設け、定期的に「カエル会議」を行って工夫してみてください。ここで好事例が出てきたら全社に横展開し、さらにはその成果を社内外にも公表することができれば、ブランディングにもつながります。

4. よくある課題と解決方法

属人化を解消するスキルマップやマルチ担当制

 よくある課題として、「業務の属人化」「突発業務が多い」「業務のムダ・非効率」「コミュニケーション不足」があげられます。業務の属人化の解決策は、スキルや知識、資格などをリストアップして明確にしたスキルマップを作成することです。それができれば、マニュアルを作成します。マルチ担当制もお勧めです。1人1案件ではなく、2人で相談しながら2つのプロジェクトを担当し、2つの案件を回すといったことが効果的です。

効率的な会議には事前準備が必要

 効率的な会議のための事前準備も大切です。例えば、会議議事録のテンプレートを事前に用意しておき、「日時、場所、出席者、役割分担、アジェンダ・議題、目的、議論方法、解決策が決まったら誰がいつまでにするか」ということを書けるようにしておきます。大事なのは、共有を目的とした会議をしないことと、議論のなかみを確認することです。目的・議題・議論方法を事前に共有してください。そして、司会進行役、時間管理係、記録係、反応係といった役割を決めることも大事です。このような役割があると、議論の参画度合いが高まり、自分事にできます。

発言のハードルを下げるアイスブレイク

 会議の冒頭で発言のハードルを下げる「アイスブレイク」の活用も有効です。好きな食べ物は何か、おすすめのお店は何か、趣味は何かといったように、アイスブレイクから始めてみると良いと思います。弊社も毎回アイスブレイクをしています。心理的安全性が高いチームでも、アイスブレイクは有効です。
 最後に、働き方改革の一番の失敗は何もやらないことです。今まで通りの働き方で良いと思ってしまうと、何も良くなりません。ぜひ、前向きに挑戦していただけたらと思います。