演題経営者必見!
従業員の幸福度と生産性を同時に高める
チームづくりの秘訣とは
講師:サイボウズ株式会社 チームワーク総研
シニアコンサルタント なかむらアサミ氏
日時:2024年10月25日(金)
場所:高岡商工ビル10階会議室
※一般社団法人富山県アルミ産業協会(DX・テレワーク推進コース)10月例会
社員のモチベーションを高める「チームのつくりかた」
『サイボウズ』は1997年に設立し、今年で27年になります。創業して10年にも満たない“ベンチャー期”には離職率が28%(2005年)に上昇し、4人に1人は辞めていくという状態でした。危機感からチームワークの質向上に向け、試行錯誤を繰り返し、現在は離職率4%に低下し、今では「働きやすさと働きがいを両立する企業」として認知されています。企業理念である「チームワークあふれる社会を創る」を目指し、組織風土の改革を進める過程で、私たちが学んだことや大事にしてきたことについてお話しします。実際に私たちがどのようにチームを作っているのか、社員とどういったコミュニケーションを取っているかなど、社員のモチベーションを高める「チームのつくりかた」のヒントになればと思っております。
チームワークは「理想」を達成するためのもの
成果を出すチームに必要なことは「チームづくり」と「場づくり」です。まず、「チーム」という言葉が非常に曖昧なことから、絆や一致団結などと言われて誤解されがちですが、これらはすべて良かった時の結果にすぎず、エモーショナルな部分を強調した日本語なので、「チームワーク」は精神論だと思われやすいです。しかし、「チームワーク」とは、理想を達成するために役割分担をして協働することであり、「チーム」は理想や目標を達成するための集団です。企業は、理想や世界観に共感している人が集まった「チーム」であり、単なる集団である「グループ」とは違います。

チームワークを良くするための必要な5つのポイント
「チームワーク」を発揮するために必要なポイント(プロセス)は、以下の5つです。
1. 理想をつくる
2. 役割分担する
3. コミュニケーションする
4. 情報を共有する
5. モチベーション(やる気)をあげる
「チーム」には目指すものが必要です。理想を達成するための集団なので、自分たちは何を目指しているかを明確にすることが最も重要です。次に、その集まった人で役割分担し、コミュニケーションすることで、情報が共有され、一人ひとりのやる気が上がります。この5つのプロセスを踏むことでチームワークが良くなり、チームとして機能すると言われています。大事なことは、最初に「理想」をつくることです。そして、この5つのポイントを踏まえ、自分たちのチームの状況を確認することが大事です。
得意と苦手を共有し、役割分担で補完し合う
それでは、どのように「役割分担」すればよいでしょうか。『サイボウズ』では、新しいチームができたとき、自分の「得意と苦手」をチームで共有し、一番苦手なことを助けてくれる人のタイプを明確にします。チームワークは、強みを活かすことも必要ですが、苦手を共有できることが大事です。例えば、自分の苦手をチームメンバー全員でなくても、上司に共有しておくだけでも、上司は配慮ある役割分担ができ、部下自身のストレスも減ります。当社はこの苦手を共有できるチームづくりを大切にしているため、私は、管理職に「チームメンバーの得意と苦手を知っていますか」と聞くようにしています。「得意と苦手」を配慮することで、チームや個人のモチベーションが変わってくるからですが、チームワークは「団結」や「和」だと誤って認識し、正しく理解していないと良くなりません。多様な個性を重視し、活かした上で、「得意と苦手」をどのように補完し合うかを考えることが大切です。
全員が同じものを目指すことが前提の「心理的安全性」
心理的安全性もチームワークと同じで、「心理」と「安全」が入っているため、誤解を招きやすい言葉です。心理的安全性は、居心地の良い人間関係ではなく、チームの生産性を上げることが目的であり、そもそも「チーム」になっているか、全員が腹落ちしている「理想」があるかが大事です。「チームの生産性を上げるのに、心理的安全性が大事だ。じゃあ、そこからやろう。」となると、ただ仲良しグループをつくって終わりという間違いが起こりやすいです。言いにくいことを言い合える関係性は、そんなに生やさしいものではないですよね。だからこそ、「全員が同じものを目指している」という前提条件がないと、心理的安全性は絶対に高まらないのです。
自分のチームを、先ほど紹介した5つのポイントの観点で考えてみましょう。チームの理想は明確ですか? 役割分担は明確ですか? メンバー間での意思疎通は図られていますか? 情報共有に偏りはありませんか? また個人のモチベーションに配慮されていますか? 今一度確認してください。

チームに欠かせない「場づくり」の必要性
ここまで話したことが「チームづくり」ですが、チームづくりに欠かせないのが「場」です。「場づくり」に必要なことは、1対1のコミュニケーションをどれだけしているかと、その中でどれだけ情報を共有しているかに尽きます。その際、マネジメントは「管理」だという考え方では、場づくりやチームづくりは失敗します。マネジメントは「対話」だと考え方をシフトすることが「場づくり」で一番大事なことです。工程管理などタスクを効率よく進めていくための管理は絶対に必要ですが、人間関係まで管理するやり方では失敗します。1対1のコミュニケーションは決して難しいことではなく、雑談からでもいいので、まずはコミュニケーションを取ることが重要です。
1対1のコミュニケーションや「ザツダン」の効果
『サイボウズ』では、毎週30分、自分の上司と「ザツダン」するのが慣習です。業務時間中に上司、部下だけではなく、同僚同士でも「ザツダン」をしてコミュニケーションを取っています。1対1のコミュニケーションを取ることで、その人とのコミュニケーションの量を増やし、それによって信頼関係を構築し、チームの心理的安全性を高める効果があります。
当事者の納得度が高いほうが、進めている仕事や業務改善などの成功確率が高まると言われており、納得度を高めるには1対1のコミュニケーションの量を増やすことが大切です。
その時に必要とされる声掛けは、皆さんもご存知のマズローの「欲求5段階説」を活用します。

私たちは一番上の「自己実現の欲求」に向かうことが良いと思っていますが、実はその下の「承認の欲求」、「社会的欲求」を満たしてあげないと、その人のやる気は出ないのです。この2つを満たすには、賞賛・感謝・励ましの言葉が大切で、ベストは「ありがとう」です。言い過ぎかなと思うぐらいかけた方がよいです。1対1のコミュニケーションは「忙しいから」とおざなりにされがちですが、実は忙しいチームほど行った方が良いです。気持ちを「言語化」し、お互いを認識する(見える化)ことから問題解決が始まります。
情報は、伝達から共有に
場づくりは、1対1のコミュニケーションをしっかり行い、「情報共有」することですが、この「情報」の考え方をシフトする必要があります。昔は「情報を持っている人が偉い」という考え方がありましたが、いま私たちは手元のスマホで検索すれば情報が何でも手に入る世界で生きています。情報格差をつくることで、面倒くさいコミュニケーションが生まれやすくなっています。このため、「情報をシェアする人が信頼される」という考え方に変わっていることを認識することが大事です。
情報格差に敏感になっているため、情報が自分に届いていないことに対する不満は、以前よりとても強くなっています。ですから、しなくてもよいコミュニケーションを省くためには、最初からなるべく情報は全部共有しておいた方が、無用なトラブルは起こらないのです。『サイボウズ』ではプライバシーやインサイダーを除いて、全ての情報をグループウェアや社内SNSで共有しています。納得度を高めることが成功確率を高めると先ほど言いましたが、その納得度を高めるためには、決定事項と「なぜそう決定したのか」のプロセス(情報)をオープンにすることが大事です。
誰もが情報を得られるチームに
あくまでもマネジメントは「対話」です。情報をどんどん出していく、1対1のコミュニケーションを行うことと、考え方を切り替えたほうがやりやすいですね。誰もが情報を得られる状態にして、所在を明確にしておくことで十分なのです。そもそも、検索したら出るようにしておくとか、アクセスできる環境をつくっておくことはとても大事です。
5つのポイントが出来ているか、チェックしてみる
チームワークは、精神論ではなく、構造的に説明できるものなので、自分たちのチームを5つのポイントで考え直してください。最初から完璧を目指す必要はありません。『サイボウズ』も、最初は何もできていなかったし、振り返ると5つ全部できていたという結果論です。この5つをチェック表のように使うことで役立ててください。メンバーが情報を共有していることは、実は公正な機会を生むことにつながっていくのです。ですから、誰もが情報を得られるチームをつくっていくということが、とても大事になります。

「気持ち」を話せる関係性が重要
「気持ち」を話せる関係性という点では、大企業や都市部の企業と比べて、中小企業や地方の企業にこそ強みがあります。会社の中で感情を出してはいけないという考え方は、大企業ほどそう思っている人がとても多いです。しかし、感情を出さないコミュニケーションや、事務的なことだけを話して「あの人とコミュニケーションが取れた」とは思わないですよね。自分の気持ちを話せて初めて、その人とコミュニケーションが取れたと人間は思うようになっています。気持ちを話せる関係性をいかに社内で作っているか、職場で感情を出した話ができているかが、大事な指標になります。
経営者や管理職の人の影響力は、思っているよりとても大きいです。若手の人と話した時に、「社長が自分みたいな20代の若造の話を聞いてくれるなんて思いもしませんでした」とか「あの時話を聞いてくれて、すごく嬉しかったです」、「ここでずっと働き続けようと思いました」といったことをよく聞きます。自分はそう接してないつもりでも、勝手に部下が壁を作っているということは、経営者になるほどよくあります。従業員のほうからはなかなか乗り越えることができないので、経営者や管理職のほうから言ってあげないと、なかなか「気持ちを話せる関係性」にはなりません。自分から、安心して何でも言い合える(心理的安全性のある)場づくりをしていくことが大事なポイントです。
知識の欠如が大きな失態を招くことは結構あります。知識が欠けてしまうと当事者のことが想像できなくなることがあるので、「今は、こういうことは言っちゃダメなのだな」といったように、自分自身をアップデートしていってください。

チームづくりの秘訣は「対話」
従業員一人ひとりの幸福度と生産性を同時に高めるのも「対話」です。成果を出すために効率性も大事ですが、自分の会社の中で、1対1の対話と気持ちの話をできる人がいるのか、そういったことに目を向けてください。この「チームワークを発揮するために必要な5つ」を使って、うまくチームづくりできているか確認するきっかけになっていただければと思います。

講師プロフィール
サイボウズ株式会社 チームワーク総研
シニアコンサルタント なかむら アサミ氏
法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻終了 修士(経営学)。2006年にサイボウズ株式会社へ入社し人事を担当。2010年から人事・広報・ブランディングを担当。2017年、チームワーク総研立ち上げ。サイボウズがチームワークの向上に取り組み始めた当初から一貫してチームワークに関する活動に携わり、研修、研究等、多岐に渡り活躍中。著書(共著)に「わがままがチームを強くする」(朝日新聞出版)、「サイボウズ流テレワークの教科書」(総合法令出版)、「わたしからはじまる心理的安全性 ~リーダーでもメンバーでもできる(働きやすさ)をつくる方法70~」(翔泳舎)などがある。