演題「女性活躍」から全社員活躍へ ~自社の現状から自社の女性活躍を考える~
講師:ともさわ社会保険労務士事務所
社会保険労務士 友澤 景子氏
日時:2023年8月10日(木)
場所:東洋ガスメーター株式会社
みなさん「女性活躍」と聞いて、どのようなイメージを持ちますか。アンケートを取ると「成果が認められる」「意思決定の場への参加」「仕事と家庭の両立」といった言葉が出てくるそうです。これは女性だけではなく、男性についても同様に重要な視点です。女性活躍を強調すると、「それは女性優遇では?」と懐疑的で批判的な見方がされることもありますので、まずはそこを整理するため、根底の考え方をお伝えしたいと思います。
経営戦略としての「女性活躍」
まず女性を男性と同じスタート地点に立たせる。それが女性活躍のスタートと言われています。公平(=Equity)になった地点、そこから先が機会の均等、機会の平等(=Equality)になるわけです。まずは公平が担保され、そして平等が生きてくるのです。
DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)という考え方があります。ダイバーシティは女性、男性、外国人、高齢者、LGBTQ、性的マイノリティの方々、障害者など、多様な人材を受け入れていくことです。社会の縮図である企業にも多様な人材がいなければ、これからは需要を取り込めず、グローバルな世界で生きていけないため、多くの企業がダイバーシティを全面に出し、経営戦略の一つに位置づけています。多様な人材を経営に活かしていくことをインクルージョンといいます。多様な人材を活かし、多くの力を発揮させるためには「Equity=公平」が非常に重要というのが、最近の新しい流れです。女性活躍はダイバーシティ経営の第一歩と、まずは認識を変えていただきたいと思います。
企業価値があがるスパイラル
経営戦略としての女性活躍のメリットとして一番わかりやすいのは、人手不足の時代において「優秀な人材が集まる・定着する」ことです。女性活躍は「女性の働きやすさ」からスタートしますが、それはいずれ「男性の働きやすさ」にもつながります。特に女性は育児と仕事の両立からスタートするケースが多いですが、男性でもその両立は必要です。介護や自身の病気と両立することも必要になってくるかもしれません。それに対する制度がしっかりしている会社は、非常に人が集まりやすいと言われています。
両立となると、限られた時間で複数の役割を果たすことになるため、日々の生活でタイムマネジメントが求められます。それは、「生産性の向上・業務改善」が大きなメリットになり、例えば無駄な仕事をやめるとか、残業が減るなどの効果があります。
また「多様性を受け入れる企業風土」も生まれ、いろいろな考え方が受容できる社員教育にもつながります。ハラスメントが起こるリスクを回避する力もあると言われています。
そして「企業のイメージアップ・コンプライアンス」のメリットです。多くの会社が女性活躍をアピールしていますが、しっかり根付いているところは少ない。やはり難しく、どの会社も悩みながらやっています。そんな中「うちの会社は女性活躍に対して、しっかりと本気で向かっている」と社外アピールすることは、企業イメージがアップします。こういった効果がわかっているからこそ、女性活躍、多様性を推進しているのです。
女性活躍取組みの流れ
では、会社が女性活躍を進めたいと思ったときに、どう取り組めばいいのか。それを後押ししているのが、女性活躍推進法です。一定以上の社員数がいる企業は、「一般事業主行動計画」の策定が義務づけられています。この行動計画の取組みの流れが、STEP1からSTEP5まで定められています。
今日はこのSTEP1の「現状把握」を、一緒にシートで共有します。自社の現状からその特徴を把握し、取組み課題を掘り下げます。御社の場合は、特徴的な課題から「女性管理職を増やすためには何をしていけばいいのか」について、こちらでテーマを設定しました。
そして、STEP2として、取組みを考えていただきます。会社のソフト面、ハード面、自分の意識・行動で何が必要か、まずは個人で考え書き出してもらい、グループワーク(ワールドカフェ)で話し合ってもらいます。
富山県が実施したアンケートに興味深い結果があります。「管理職になりたくない理由は何ですか」という質問をしました。それに対して「自分の能力に自信がないから」という回答が女性に多かった。しかしその自信のなさは「詐欺師症候群」かもしれません。例えば自分が仕事で成果をすごく上げて、上司から褒められたとしても「それは私の能力じゃないです」「私はそんなにすごくないです。たまたま今回よかっただけです」と、みんなを騙しているような感覚になりがちになるのが「詐欺師症候群」と言うそうです。どちらかというと女性にこの傾向が強いそうです。管理職に限らず、何かを任された時、「それを任された時点で自分は適任」だと思って下さい。
「アンコンシャス・バイアス」はないか
さて、女性活躍を進めるにあたり、アンコンシャス・バイアスの考え方がとても重要とされています。アンコンシャス・バイアスとは、無意識の思い込み、偏見です。このアンコンシャス・バイアスは誰でも持っているものです。
私たちの脳は、意識的に行う遅い思考と、無意識に行う速い思考があります。日常で様々なことを判断するときには、無意識に行う速い思考がフル回転していくと言われています。育った環境やこれまで学んだこと、見聞きしたこと、過去の経験から、「きっとこうだ」と無意識の思考回路として頭に浮かぶそうです。
このことは、決して悪いことではありません。問題はそれが本当に正しいものかどうか、実態に即したものなのか分からないということです。この無意識の思考によって、周りの人を傷つけてしまうこともあります。そこが大きなアンコンシャス・バイアスの問題だと言われています。
例えば、「あなたは真面目だよね」と言われたとき、みなさんはどう思いますか。「褒められた」と思う人もいれば、「バカにされた」と思う人もいるかもしれない。人によってその捉え方が違う。ですから、大事なことはちょっとした表情で「今の言葉でもしかしたら相手が傷ついたかもしれない」と察する能力です。
アンコンシャス・バイアスは部下のパフォーマンスを下げるとも言われています。例えば育児休業から復帰した女性社員に「復帰後は無理させると大変だから、出張に行かせない」「大きなプロジェクトを任せない」と配慮のつもりで行う。それをありがたいと思う社員もいれば「蚊帳の外にやられた感じですごく嫌だ」という人もいるわけです。
まずはアンコンシャス・バイアスがあることを知り、日常で「もしかしたら」と気づくことが重要です。これは個人だけの問題ではなく、企業において致命的になることもあります。CMがジェンダー差別だと、SNS上でかなり叩かれた企業もご存知だと思います。女性活躍を進めるには、女性がこうあるべき。男性がこうあるべき。管理職がこうあるべきだということも含めて、「本当にそうなのかな」という疑問をぜひ持っていただきたい。
誰もが活躍できる職場へ
女性活躍は、男女問わず全社員が活躍するための、あくまでスタート地点と捉えていただきたい。ここ5、6年、働き方改革で長時間労働の是正や有休の促進が盛んに叫ばれていますが、ここでは働きやすさが焦点になっています。
「働きやすさが整った次は、働きがいだ」と言われています。これは全社員の働きがいに結びついていきます。全社員が生き生きと働くような職場を作っていくために、まずは女性活躍からスタートしてみてはいかがかと思います。そしてその先には、障害者、高齢者、外国人、LGBTQ、そしてもちろん男性も多様ですので、みなさんが生き生きと働けるダイバーシティが進んだ職場を作っていただきたいと思います。
講師プロフィール
ともさわ社会保険労務士事務所・社会保険労務士 友澤 景子氏
静岡県伊豆の国市出身。2009年に富山市にて事務所開設。クライアント企業等の人事労務や労使トラブルに関する相談、就業規則作成、労働・社会保険の手続き代行等を行う。最近では、中小企業を中心に働き方改革推進に伴うワークライフバランス、女性活躍、高年齢者雇用、ハラスメント防止対策などの相談助言を行う。また、労働法改正セミナー、パワハラ対策セミナー、社内研修など、講師として活動している。身近に相談できる専門家として、「親しみやすさ」「わかりやすさ」をモットーに日々業務にあたっている。