男女格差後進国の日本

 世界経済フォーラムが発表した男女格差指標であるジェンダーギャップ指数(GGI)は146ヵ国中116位、G7中で日本は最下位です。しかも、15年間この指数が改善していないことが大きな課題です。

 また、「高等教育を受けた人への経済的リターン」(OECDのEDUCATION at a GRANCEデータ)を見ると、日本男性はOECDの平均に達していますが、女性は地を這うような低い数字です。高校、大学までは男女差はほぼなく、女性も非常に優秀な学業を修めていると思いますが、経済的リターンでは、他国と大きな開きがあるのが現実です。日本の労働生産性も先進7ヵ国中最下位、明確に世界との差があるため、世界基準で自分の立ち位置をみる必要があります。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の効果

 日本投資銀行が調べたデータによると、多様な15業種ほぼすべてで、男性のみのチームより男女共同混合チームの共同発明の方が、特許の経済価値が高いことが分かりました。また、2016年と2021年で業績比較したところ、女性管理職の比率の低い群はマイナス43%減益だったのに対して、女性管理職の比率が高かった群は28%増益でした。世界で時価総額100億ドルを超える企業の株式パフォーマンスを比較したところ、女性取締役が1人以上いるケースでは、いない場合に比べて15年間のパフォーマンスが1.5倍になっていました。

D&Iは成長戦略

 今や、D&Iは企業が取り組む成長戦略で、社員のウェルビーイングの基盤でもあります。自分らしく生きていい「心身が満たされた」社員は、会社でも高いパフォーマンスを発揮します。誰もが活躍でき、豊かに過ごせる環境を実現するエクイティ(Equity・公平性)の視点が注目されており、社員のエンゲージメントの向上がモチベーションアップへ、さらに業績向上、離職率の低下にもつながると言われます。
 育児や介護、LGBTQ+など、個人の事情を受容しながら組織を運営していくことが大変重要です。フルタイム勤務しながら2人の育児に取り組んだ私自身、理系女性としてマイノリティでした。パフォーマンスを発揮できる部署に願い出て異動し、育成の場を与えられて成長してきました。
 現状を変革するためには、意思決定層の多様性が重要です。過渡期には、欧米の例にあるアファーマティブアクション(積極的格差是正措置)も検討の必要があると考えられます。

アンコンシャスバイアスを超えて

 1970年代のアメリカで、演奏者が見えない状態で行うブラインドオーディションを導入したところ、女性演奏者の合格率が20%から40%までアップしたそうです。見た目(音楽の実力以外の要因)が楽団員の採用に大きく影響していたこと、それをブラインドという工夫で克服したことが興味深い事例です。
 アンコンシャスバイアスに関連した学術論文を2つ紹介します。1つは、白人と黒人でミニゴルフのテストをした実験です。プレイ前に「生まれながらの運動能力のテストです」と言われた場合は白人のスコアが悪くなり、「スポーツインテリジェンスのテストです」と言われた場合は黒人のスコアが悪くなったそうです。
 もう1つは、難しい数学のテストを受ける前に「男女差がある」と聞いた場合に、女性のスコアが著しく悪くなり、「男女差なし」と言われた場合は、どちらもほぼ同じスコアだったという実験です。つまり仕事やテストの際に、プレッシャーがかかると力を発揮できないことがあるのです。
 日本では残念ながら、女子の理工系の学生が少なく、工学系に進むのは15%です。この背景には、男女の能力や平等意識に対するアンコンシャスバイアスがあるとの研究結果も報告されています。
 アンコンシャスバイアスはなくすことはできませんが、論理的な思考を働かせ、次世代に向けて少しでも再生産しないよう意識すること、克服するための工夫・社会デザインに取り組むことが望まれます。

D&I推進の制度策定から行動変容による定着へ

 取組のスタートは経営層による経営指針やKPI(重要業績評価指標)の設定ですが、この後の施策は経営層と現場の両方からサンドイッチで進めましょう。経営層は意識改革を行い、いかに発信とコミットを継続するかが重要です。現場側では、キャリアアップ研修などの施策により、社員一人一人が自己肯定しながらポジティブサイクルを回し成果を積み上げる必要があります。富山から、世界基準での取組を期待しています。

現場と経営層のサンドイッチ施策 5つの問い

  1. Q1「女性だから」「子どもが小さいから」と先入観を持っていませんか?
  2. Q2男性社員は育休を取りやすい環境でしょうか?
  3. Q3成果が出てから・・と、仕事を任せるのがあとになっていませんか?
  4. Q4上司が部下一人一人を応援し続けていますか?
  5. Q5安心してチャレンジできる環境を作っていますか?