なぜ男性の育児休業の重要性が叫ばれているのか

 みなさんもテレビやニュースなどで聞いたことがあると思いますが、今年度は男性の育児休業制度が大きく変わろうとしています。昨年度、育児・介護休業法が改正され、2022年4月から段階的に施行されています。では、なぜ男性の育児休業が叫ばれているのでしょうか。

 東レ経営研究所・渥美由喜氏の研究によると、結婚前の女性が1番愛情を注ぐのは彼氏・夫ですが、結婚後に子どもが生まれたら、女性の愛情は一気にほぼ100%に近い形で子どもに降り注ぎ、彼氏・夫に対する愛情は低下します。しかし、ここからが大事で、女性の愛情は夫婦で協力して子育てをすると回復し、夫が子育てに関わらないと低迷したままになります。
 さらにこの結果は、第2子以降の出生状況にも関わってきます。夫が子育てに関わる時間が長ければ長いほど、第2子以降の出生状況がよくなるというデータもあります。国としても少子高齢化の改善に向け、男性の家事・育児参加によって、家庭の愛情が回復して欲しいと考えています。大きな社会目線でいうと、やはり子どもがたくさんいるような社会になってほしいということです。

 そして産後ママの現実があります。産後の体調がすぐれないなか、1人で子育てをしていると、メンタルに不調をきたす可能性が大きいです。ママの約10人に1人が産後うつを発症していると考えられています。1人で子育てを抱え込まない。例えば、しっかり寝る。睡眠はうつとの関係が深いです。そういった意味で、配偶者の出産日だけではなく、2、3日、もしくは1週間2週間と、まとまった休暇を取ってママにしっかり睡眠を取らせてあげる。そして子育てに関わることが必要です。育児休業取得促進の背景には、そのような狙いがあります。
 一方で、男性からは「母性ってあるよね」という話もよく聞きますが、実は母性というものは生まれ持って備わっている本能ではありません。育児という経験を積み重ねることによって、形成されていく能力だと言われています。ですからパパでも育児に関わる時間が増えることによって、必然的に“母性”が形成されていきます。だからこそ育児休業を取って、家族や子どもとの関わりを増やしていくことが大切です。

育児休業について知ろう

 ここからは育児休業について基本的なことを紹介します。厚生労働省発行の冊子「父親の仕事と育児両立読本~ワーク・ライフ・バランスガイド~」をもとに説明します。
 育児休業は、仕事と育児の両立を支援するために「育児・介護休業法」で定められている制度です。男性も女性も取得でき、基本的には男女で違いはありません。女性には産後8週間の「産後休業」があるという違いだけです。制度改正により有期契約社員(例えば1年契約を更新している人など)も含め、どのような雇用形態であっても育児休業を取りやすくなっています。配偶者が専業主婦であっても夫は育児休業を取得できます。育児休業を取るには、開始1カ月前までに勤め先に申し出ることがルールになっています。職場の状況を考えながら計画的な申し出をすることが、思いやりだと思います。
 取得期間は、法律上では原則1歳までですが、1歳の時点で保育所に預けられないなど特別な理由がある場合、1歳6カ月になるまで延長できます。さらにその時点でも保育所に預けられないなど一定の条件を満たす場合、2歳になるまで再延長できるのが育児休業の基本的なルールです。

パパ・ママ育休プラス

 また、「パパ・ママ育休プラス」を利用すれば、1歳までではなく1歳2カ月までの間に育児休業を取得できる特例があります。後から育児休業を取った夫婦のどちらか片方が取れます。「なぜ1歳2カ月までなのか」がポイントです。例えば、ママの育児休業が1歳で終わって職場復帰後、自分の仕事と不慣れな子どもの保育所の登園でいっぱいいっぱいになる可能性があります。そのような職場復帰前後の大変な時期をパパがフォローすることで、職場復帰がスムーズになったり、ストレスを軽減できたりする効果があると言われています。
 男性に限らず、育児休業は子どもが生まれた直後に取るものだという感覚があるかと思いますが、実はママの職場復帰時期に取得するという取り方もあります。育児休業に関しては、取得期間も家庭によって様々だと思います。そこに決まりはないので、自分や家庭にとって良い働き方をするためには、どのタイミングで育児休業を取ればいいのかを家族と話し合ってください。
 また、育児休業中の所得に関して心配される方もいます。育児休業を女性が取っても男性が取っても、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。支給率は、育児休業の開始から180日までは賃金の67%、それ以降は50%です。さらに育児休業中は社会保険料(健康保険・厚生年金保険)が免除されます。免除期間など詳しくは各企業の労務担当者に相談してください。社会保険料の免除に加えて育児休業給付金を受け取ることで、丸1カ月休業した場合でも、これまでの所得の約8割が確保できると言われています。

「産後パパ育休」制度創設と育児休業の分割取得

 2022年10月1日から、既存の育児休業に加えて、男性向けの育児休業の新制度「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設されました。これがまさに出産直後のママのケア、そして子育てに関わってきます。
 産後パパ育休は、子どもが生まれてから8週間以内、つまり母親の産後休業期間中に4週間まで取得できる育児休業で、2回まで分割して取得できます。比較的短い育児休業なので、職場への申し出も2週間前までにすることになっています。育児休業では原則就業不可ですが、産後パパ育休は、事前に勤務先と調整していれば、就労可能日に上限はありますが、休業中の就業が可能です。これは労使双方の合意が必要なので、職場としてどうするかは今後検討する部分になると思います。このように、より柔軟で取りやすいパパ向けの育児休業、特に子どもの出生直後の部分ができました。
 そして、これまでの育児休業も、夫婦ともに分割して2回取得が可能になりました。男性は、産後パパ育休と合わせると最大4回分割して取得が可能になりました。夫婦が交代で育児休業を取れるようになったのが新たな仕組みです。

会社や職場で理解を得るための心得7箇条

  1. 事前準備を整え、早めに上司に相談すべし
  2. 職場で「育児休業取得」を周知し、理解と協力を求めるべし
  3. 人事部などに相談すべし
  4. 周囲の支援は、普段の仕事ぶり次第と心得るべし
  5. 業務を棚卸しし可視化すべし
  6. 社内の関係部署に周知すべし
  7. 顧客や取引先に連絡・周知すべし

 先述の冊子に「会社や職場で理解を得るための心得7箇条」が書かれています。企業の方と育児休業の話をすると、長期的な休みがあると職場の段取りが難しいと聞きます。そのような時こそ、上司と部下で協力して育児休業を取りやすい職場環境を構築していく必要があります。それこそがまさに働き方の部分の大切なポイントで、より良い職場環境を整備すれば、男性も女性も育児休業が取りやすくなり、職場の生産性が上がるなど様々な効果が出てきます。この7箇条をぜひ心に留めておいてください。どのような立場であっても温かく育児休業を考えるきっかけになると思います。
 7箇条のうち、特に大切なのは「1 事前準備を整え、早めに上司に相談すべし」だと思います。事前に育児休業の制度について下調べをして内容を整理し、休業期間中にどのような過ごし方をしたいかを考えて実行する。育児休業中の過ごし方は、復職した際に生きてきます。よく聞くのはマルチタスクで、育児を経験すると料理や洗濯、片付けなど同時に多くのことをできる力が養われると言われています。

男性の育児休業取得による職場への影響

 育児休業の取得によって、家族や夫婦で話し合う機会が増えたり、夫婦で協力して子育てしたりすると、家庭の中で良い循環が生まれます。この循環は家庭に限らず、職場にも好影響を及ぼします。男性の育児休業取得者がいる職場では「それぞれが自分のライフスタイルや働き方について見直すきっかけになった」「仕事に効率的に取り組むようになった」「職場や会社に対する愛着や信頼が深くなった」という変化がありました。育児休業の取得をみんなで進めていくことで、社員の職場に対する思いが大きく変わっていくと思います。
 例えば、育児は若い世代が主に関係しますが、これからは介護と仕事の両立に向き合う方も出てくるかもしれません。介護になると育児よりも中長期的に両立していかなくてはなりません。職場から育児休業取得者が出たことをきっかけに、育児・介護をする方や時間に制約がある方、休業せざるを得ない方が出てきた時を想定して、対応案を考える企業もあります。育児休業は介護に比べると計画的に進められる良さがあります。そういった意味で、職場で育児休業を取得する方が出てきたらどうやって仕事を回して行こうかを考えることによって、ある日突然、介護で休みが必要になった方が出た時でも、しっかりとしたフォロー体制ができ上がります。ぜひ、職場全員で知恵を出し合って、改善していただけたらと思います。

 家庭だけ、仕事だけでなく、どちらも充実させていく。そして自分が育児休業を取ることで周りもみんなハッピーになる働き方、生き方を目指していきましょう。子育てというものは自分育てでもあり、企業で職場を育てることでもあります。育児休業は職場全体、みんなで考えていくものだという視点は、育児休業を取る人だけでなくて、みんなが生き生きと働くきっかけになります。まずは自分からやってみて、失敗も繰り返しながら学んでいく。そうしながら取り組んでいくことが、子育ての大変さも楽しさも味わえるのかなと思います。