イクボスのメリットと
カギを握る「10の実践」

 イクボスは、部下の育児休業取得や短時間勤務などがあっても、業務を滞りなく進めるために業務効率を上げ、育児や家事と仕事を両立できるように配慮し、自らも仕事とプライベートを充実させている経営者・管理職のことです。
 イクボスによるマネジメント上のメリットは、部下一人ひとりが抱える事情を理解し、成長をサポートすると、働くモチベーションが上がることです。誰もがワーク・ライフ・バランスを充実させる働き方が実現できれば、“お互い様”でカバーし合う体制ができ、心身ともに充実します。それぞれが持てる能力を最大限に発揮できる組織となり、チームの団結力アップ、組織風土による離職防止、ハラスメントも起きにくくなります。

 ここで進めて欲しいのが「イクボス10の実践」です。

 「イクボス10の実践」のうち、働き方改革の業務効率化に一番効果が大きいと言われるのが「会議のムダ取り」です。会議への参加、時間、頻度、進め方を工夫して下さい。新型コロナウイルスの影響でオンライン会議も増えています。2つ目は「社内資料の削減」です。経営会議用の資料の2割が実はあまり使われていないというデータがあります。そして「標準化・マニュアル化」に取り組むことで、誰かが休んでもカバーできるようになります。最近は動画を使ったマニュアルや引継書の作成も進んでいます。「労働時間を適切管理」すること、「業務分担の適性化」も重要です。7番目と8番目は「共有化」で、担当以外の業務を知ることでカバーに入りやすい環境を作り、情報を共有することがポイントです。「がんばるタイムの設定」や「仕事の効率化の共有」も大事です。
 番外編ですが、取引先に理解を求めることや、チームメンバーとのコミュニケーションも大切です。メンバーの「幸せポイント」を知り、一人ひとりの「強み」を見つける。互いに知っている共通の窓が広がると信頼関係が深まります。ぜひ「イクボス10の実践」に取り組んで下さい。

依然低い男性の育児休業取得
人材不足解消には不可欠

男性の育児休業取得の現状と中小企業における課題

 男性の育児休業取得率は、2020年度で12.65%と、依然低水準です。取得期間も1カ月未満が全体の8割と短いです。男性の家事・育児参画に関するデータを見て下さい。

 上図の縦軸は夫の平日の家事・育児時間で、長ければ長いほど妻の就業継続割合が上がっており、夫の平日の家事・育児時間が4時間以上の場合には、妻の8割近くが就業を継続しています。つまり女性が出産後も継続して活躍するためには男性の家事・育児参画が不可欠ですが、夫の1日当たりの家事・育児参画時間は1時間23分とまだまだ足りていません。
 ではなぜ男性の育児休業取得が進まないのか。1番大きな理由は「代替要員の確保が困難」。2番目が「そもそも男性自身に育児休業を取る意識がないのでは」と言われています。また、「職場がそのような雰囲気ではない」「キャリア形成において不利になる懸念がある」「上司の理解が進まない」といった項目は、従業員は課題だと思っているが会社は従業員ほど問題だと思っていません。この認識のギャップを埋める施策が必要で、イクボスの役割も非常に重要です。

現行の育児休業制度

 現行の育児・介護休業法において「1歳未満の子どもを育てる男女労働者」を対象とした休業が育児休業です。男女とも取得でき、妻が専業主婦や育児休業中でも、夫は育児休業を取得できます。
 特例措置もあります。育児休業は通常原則1回ですが、「パパ休暇」を利用すると2回取得が可能となり、「パパ・ママ育休プラス」を利用すれば、1歳2カ月に達するまでの間で取ることができます。そして育児休業期間中は、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。賃金ではなく給付金なので所得税や雇用保険料、社会保険料も免除されます。

大きく変わる育児休業制度

新育児休業制度の概要

 では2022年4月1日を皮切りに、新しい育児休業制度はどう変わるのでしょうか。
 まず、「育児休業を取得しやすい雇用環境整備」では、研修の実施や相談窓口等の設置など、複数の選択肢の中で対応が必要です。また、「個別の周知・意向確認」では、妊娠・出産(本人または配偶者)の申出に対して、これまで努力義務となっていた個別の周知・呼びかけ、取得の意向確認が、2022年4月1日以降は義務付けされます。
 2022年10月1日からは「男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組み」が創設され、スタートします。子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能になり、申出期限も通常の育児休業が原則休業開始の1カ月前までであるものが2週間前までになります。また現行では特例以外は原則1回ですが、2022年10月1日から分割して2回まで取得できるようになります。
 このほか「有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和」では、「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が2022年4月1日から廃止。労使協定で対象から一部除外もできますが、このような緩和措置がスタートします。また1,000人超の事業主に対しては、2023年4月1日から育児休業等の取得状況の公表が義務付けされます。「育児休業給付に関する所要の規定の整備」も2022年10月1日から始まります。

新制度等の取得パターン・イメージ

 上図の上段が改正前、そして改正後は下段のような取得方法が可能になります。父親が産後に休業でき、分割取得できる「産後パパ育休」が追加され、通常の育児休業も分割取得できるようになり、それぞれ2回、計4回取得できます。保育所の入所が困難で育児休業を延長する場合は、育児休業の始期が柔軟になるため、家庭の事情に応じて任意の時期にバトンタッチできるようになります。

男性の育児休業取得へ
メリットを周知し推進

男性が育児休業取得できる企業・職場は危機に強い

 円滑な育児休業取得のために、育児休業を取得される方は事前に上司と同僚に余裕を持って伝えることが大切です。伝えた後はしっかり業務の棚卸しを行って引き継いで下さい。取得後は、そのメリットを会社・上司・同僚に感じてもらいましょう。自身がロールモデルとなれば、次に続く方もどんどん増えてきます。
 男性が育児休業取得できる企業・職場は危機に強いです。そして男性の育児休業取得は女性活躍の理解促進にもつながります。今後はいかに人材確保するかが問われます。コロナの状況もあり、全く違った発想で新しいものを生み出していくためには、さまざまな人の視点で知恵を出し合うことが大切です。

男性の育児休業取得のメリット

 企業・職場のメリットは、職場の雰囲気が変わり、仕事の効率を見直すきっかけになります。社員の満足度や帰属意識の向上、離職率の低下にもつながります。同僚にとっては、休業取得者の業務を引き継ぐことで、チームメンバー全体のスキルアップが狙えます。
 育児休業を取った男性は、ライフ面では家族の絆が深まります。仕事面では、男性はシングルタスク、女性はマルチタスクが得意だと言われていますが、家事・育児で男性も段取り力が上がりマルチタスクになる。子供のリスク回避能力を仕事に生かすこともできます。そして家族にとっては、産後に不安定になりがちな妻に夫が寄り添うことは今後の良好な夫婦関係につながります。また、妻がフルタイムで復職できれば、収入面でもメリットがあります。

 最後にご自身の立場で、職場の環境改善と育児休業取得について考えて下さい。先ほど「イクボス10の実践」のご紹介をしました。みなさんの職場、もしくは会社や組織上の現状と問題点を洗い出し、問題点がどこにあり、どう改善するか。改めて考えるきっかけにし、継続していただきたいと思います。