働き方改革は、2020年4月から働き方改革関連法が順次施行され、中小企業についても2021年4月から施行されました。今なぜ「働き方改革」が盛んに言われているのかを紐解くと、人口構造の違いに行き着きます。この人口構造は、「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」に大別されます。これはハーバード大学のデービッド・ブルーム教授が1998年に提唱して一躍有名になった考え方です。

生産年齢比率が高く
爆発的に発展する人口ボーナス期

 人口ボーナス期とは、生産年齢比率が高く、国にたくさん労働力がある状態で、人口構造が経済にとってプラスになる時期です。現在の中国、韓国、シンガポール、タイがそうだと言われていますが、中国は2021年辺りで終わり、韓国、シンガポール、タイはまだまだ伸び、インドは2040年位まで続くのではないかと言われています。
 人口ボーナス期は、労働力が豊富で、安い労働力を武器に世界中の仕事を受注する一方、高齢者比率が低いので社会保障費は安くすみます。国の基本的経済はインフラ投資が進むことで底上げされ、爆発的な経済発展を遂げます。
 また、長時間労働で経済発展しやすい時期であるため、インフラ投資や土地開発などの重工業が多くなります。重工業が多い経済では、筋肉量の多い男性がたくさん働く方がよい。つまり性別役割分担があり、男性は企業で働き、女性は家庭を守った方が効率的です。また、市場にまだ物が少ない状態なので、隣の企業と同じものでいいから、とにかく早く安く大量に出すことが大事です。そのために長く働き、長く工場を稼働させ、長くお店を開け、儲けていくことが理想でした。

 日本は、1960年から1990年頃が人口ボーナス期だったのではないかと言われています。高度経済成長期で国も個人も潤っていくと、子供にはもっといい仕事をさせたいと教育投資が始まります。中学卒業後に市場に出ていた子供が高校・大学というように、学校に通う期間が長くなっていきます。そうすると働き始める時期が遅れ、高学歴化によって人件費が上がっていきます。
 そして、働き始めることが遅くなる影響を受けて晩婚化・晩産化が進みます。また、多様なライフスタイルが進展し、そもそも結婚しないという人も増え、少子化が進行します。また、医療や年金制度が充実していくので、寿命が長くなっていく。長く生きる人が増える=高齢化社会になっていることになります。
 一度この人口ボーナス期が終わると、もう二度と来ません。日本は1990年に人口ボーナス期が終わり、人口オーナス期という次の段階に入ったと言われています。

現在と未来の労働力確保が
オーナス期を乗り切るカギ

 オーナスとは重荷や負荷のことです。人口構造が経済にとって重荷になる時期と言われています。働く人よりも、高齢者や子供などの支えられる人が多くなっている状況です。人口オーナスによって生じる典型的な問題は労働力人口の減少です。これに伴い働く世代が引退世代を支える高い社会保障制度の維持も、困難な状況が続きます。これはどこの国も同じプロセスを経ています。
 人口オーナス期を乗り切るカギは2つあります。
 ①現在の労働力確保:組織の中で働きやすい環境を整備し、生産年齢人口でありながら、まだ労働参画できていない人(女性や障がい者、育児・介護と仕事の両立を求められている人)を、どれだけ労働参画させられるか。
 ②未来の労働力確保:子どもが減ると未来の労働力がその分減るということになるため、少子化対策をしっかり行い、子どもが生まれやすい環境をいかに作っていけるか。
 人口オーナス期の現状や課題を理解し、成長戦略を打てるかどうかが非常に重要です。ボーナス期の政策や企業戦略は逆効果になり、転換できた国・企業が勝ちます。

人口減少時代の経営戦略に
不可欠な働き方改革

 働き方改革が必要な理由として、日本社会においては人口減少問題があります。企業や行政などの組織であれば、優秀な人材の獲得と定着のため。個人においては育児や介護等と仕事の両立といったことが挙げられます。少し前までは企業が福利厚生の一環として、働き方改革や女性活躍を推進してきたことが多かったです。しかし今は、企業が安定して成長していく経営戦略として、働き方改革は不可欠です。
 では今後求められるチーム運営はどのようなものでしょうか。一部の人材に甘えるようなマネジメントはもう通用しなくなっています。職場全体の仕事のやり方において、属人化をいかになくしていけるか。そしてチームで仕事をシェアし、きちんとみんなで対応できるような状態を整えることが大事になっていきます。
 そのためには一つ一つの仕事を点検し、社内で済む仕事のうち、捨てられるもの、断れるもの、減らせるものがないかをしっかり見極め、決断することが必要です。

生産性を高めるのは
心理的安全性

 またチームが、自分にとって居心地のよい安心安全な場であることも、とても大事なポイントです。これを心理的安全性の確保といいます。
 Google社の調査によると、生産性の高いチームには2つの共通点があります。
1.均等な発言の機会がある:それぞれのメンバーが同じ立場・目線で話していくような関係性がある。
2.社会的感受性が高い:自身の発言の影響を理解し、相手の感情を読み取ることができる。
 つまり、「自分はこのチームでなら、しっかりと発言することができる。他のメンバーは自分のことを分かってくれているので、自分の意見が笑われたり、拒絶されたり、罰せられたりしない。何を言っても自分は安全な場所にいることができる」という心理的安全性が、チームの生産性を高めていたのです。高い生産性に必要なのは、学歴や個人の能力・マネジメントのスキルではなく、心理的安全性の高い環境と判明しました。

求められる 多様性に
合わせた新しいマネジメント

 一人ひとり抱えている事情が異なり、特性も異なっていることを考えると、それぞれの強み弱みを開示し、メンバーの多様性を生かして、チームで仕事をしていくことがとても大事になります。
 個人も組織も多様化している中、企業側も新しいマネジメントスキルを身につけなければ生き残ることができません。この「多様化への挑戦」も働き方改革の中では非常に重要なポイントです。

新しい仕事様式に飛び移ろう
その先には「勝てる組織」

 今、人口構造の急変により、日本は労働環境が大きく変わりつつあります。沈みつつある「人口ボーナス」山から、隆起している「人口オーナス」山に、一人ひとりバラバラではなく、会社の中で一斉にきちんと飛び移れるかが重要です。
 全国各地で仕事をさせていただいている中で感じるのは、優秀な人材を確保できるかどうかは企業経営の喫緊の課題であり、そこに結びついているのが働き方改革ということです。「うちは働き方改革をやっています」と学生さんに伝えると、目の色が変わるとよくうかがいます。
 なぜ「働き方改革」がこれほどまでに経営戦略になるか。それはイノベーションを起こして勝ちに行くためなのです。ぜひこれから働き方改革を進め、その先に「勝てる組織」と、皆さん自身の充実した人生があると信じて、取り組んでいただければと思います。