「くるみん認定」取得を活用

働き方改革に取り組んだ背景

鈴木氏:当社は明治45年(1912年)に創業し、今年で108年目を迎えました。オフィス内装デザインのワークプレイス構築事業や、オフィスサプライ事業を行っています。
 働き方改革に取り組むことになった背景には「事業柱の変化」「地域開発」「人事」の3つがあります。まず「事業柱の変化」は、文具事務用品販売からオフィス構築事業に柱を転換したことです。工事は土日に行われることが多く休日出勤が増えたため、振替休日を取りにくい雰囲気を払拭しなければならなかったのです。また「地域開発」は、東京五輪を契機に会社のある虎ノ門エリア再開発が進み、オフィスを改築する必要に迫られたことです。
 そして、最も大きい背景は「人事」です。介護中の社員や女性社員の定着、継続勤務の問題、若手社員の定着、中途・新卒採用への対応が理由です。特に女性が活躍するためには、継続して勤務してもらうことが非常に大事です。
 当社では働き方の多様性に対する考え方や素地がなかったため、第三者による認証制度への取り組みが必要だと思い、厚生労働省が推進する「くるみん認定」取得を活用しました。男女問わず子育てや介護をしている人でも働きやすい環境整備や、残業をしない働き方を目指しました。

成功体験と、何でも言いやすい雰囲気・環境

女性の継続勤務・若手定着に必要なもの

鈴木氏:ではここで当社の若手社員から実体験を通して学んだ、女性の継続勤務と若手の定着についてお話しします。

本山氏:私は2014年に新卒入社し、今年で7年目になります。これまで、仕事に対するモチベーションが時期によって上がったり下がったりしました。2019年頃には「会社にはロールモデルがいない=先が見えない」という不安に襲われていましたが、現在は「ロールモデルがいないなら自分が作る」と発想を転換し、前向きに仕事と向き合っています。
 私の経験から、女性の継続勤務、若手を定着させるには、2つのことが会社に必要だと思います。まず①「個々が挑戦できる機会を増やす(成功体験)」ことです。若手のうちからいろいろな経験を積める現場に出ることで、自信ややりがいに繋がります。次に②「部門の垣根を越えて、言いにくいことも言いやすい雰囲気や環境づくり」に取り組むことです。普段から世間話ができるような雰囲気があれば、思い悩む時にも解決する突破口になると思います。

鈴木氏:当社の女性社員は4年目ぐらいで辞めるというのが定着していて、私はそれを払拭したかった。そのために「ブラザー・シスター制度」や「若手会議」を行って、若手の要望を吸い上げたり気付ける工夫をしたりしています。若手の定着は本当に大事です。
 また働き方改革を推進する中で、私が社員に聞きたかったのは「会社に満足しているか」です。そこで社員満足度のアンケートを95期(2015年)から取り始め、「大変満足」「満足」と回答する社員比率50%以上を目標に、さまざまな取り組みをしました。

制度構築・環境整備・フィードバックを推進

制度構築

鈴木氏:ではどんな整備を行ってきたのかというと、「制度構築」「環境整備」「フィードバック」の3つです。まず「制度構築」では2018年度に「くるみん認定」を取得し、介護や育児休暇の規定を策定しました。また勤怠管理システムを導入し、残業時間の管理や営業が直行直帰した時には、直帰先で勤怠を打てるような「モバイル勤務環境」を整備しました。そして管理職に5日連続休暇を強制的に取らせる制度を作り、休暇取得を推進しました。
 働き方改革は男性が変わらないと難しい。女性の活躍は、男性社員がどれだけ家庭に合わせて働けるかにかかっています。当社の若い男性社員は共働きがほとんどです。男性社員の奥さんが「オカモトヤさんは働きやすくてとてもいい」と言ってくれる会社にしていくと、男性社員も辞めづらく継続勤務してくれると考えています。

環境整備

鈴木氏:続いて「環境整備」です。ノートPCを外部に持ち出しても大丈夫なように、セキュリティ上の運用やWI-FI整備、外出先からのサーバーアクセスなどのITインフラを構築し、ISMSを利用して規定を作成しました。また本社ビル耐震工事を機に新しいオフィス作りに取り組み、フリーアドレスの試験運用や、本社の什器リニューアルをしました。ライブオフィスを構築し、基幹システムを入れ替えたことも、働き方を大きく変えました。オフィスの環境・空間は、社員のモチベーションや意識改革に非常に重要です。

フィードバック

鈴木氏:当社では社内アンケートを毎年11月に行っています。全社員対象の個人面談は年4回で、1月の個人面談は、管理職は社長と、一般社員は役員と行います。面談やアンケートで出た社内の課題を、次期方針を計画する会議に反映させています。
 社員満足度に関するアンケートでは、95期(2015年)は「大変満足」「満足」が45%ぐらいだったのですが、98期(2018年)にはガラッと様変わりして53%にはねあがりました。現在は55%です。当社は「普通」にチェックをつける人が大変多い会社だったのですが、「普通」が減って「満足」以上が増え、非常にうれしい回答です。

キャッチフレーズ

鈴木氏:社員全員の3年後の目標をメッセージボードに掲示しています。公私ともに「自分の3年後が希望通りや思い通りになっているか」は、会社の原動力に繋がります。仕入れ先のお客様も見ますので、コミュニケーションのツールにもなります。
 このほかテレワークやシェアオフィス、チャットツールなどICTを使った仕事を導入・推進し、副業承認制度も始めます。また経済産業省が推奨する「健康経営優良法人認定」の取得に向けて推進しています。

働き方改革で“選ばれる会社”に

コロナ禍と今後の課題

鈴木氏:コロナ禍においては「営業ツールやオフィストレンド」も変化し、今までのように訪問営業スタイルが難しくなったので、メルマガやWEBでのアンケートを行い、お客様との関係を切らないようにしています。また、コロナ商材対策委員会を作ったり、セミナーのWEB開催も始めたりしています。
 コロナ禍でテレワークや、出社・外出禁止の自粛期間があってもある程度の人数で回せたのは事実です。それならば今までと違う仕事をするとか、もっとスピードをあげ、移動がない分その時間を違うことに向けるといったように、生産性を上げてどのように仕事をしていくかが、今後の大きな課題になっていくと思います。
 また、社員の日頃の活動が目に見えなくなってきています。する方もされる方も評価の見直しが必要で、少しシステマチックにしていくことが課題です。「社員間コミュニケーション」については、少人数で集まりつつも、TeamsやzoomなどのWeb会議で、コミュニケーションを定着させることが課題です。
 アフターコロナでは、仕事の仕方・あり方が問われる時代になりました。働き方改革を進め、今いる社員や今後入社する人たちが、選んでくれるような会社になることが、中小企業として、我々が課せられた使命だと思います。